カフェ経営の理想とギャップ

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理想のカフェ経営

カフェ経営において、唯一の「正解」というものは存在しません。それでも、カフェにはその街を彩る「正義」が期待されています。たとえ店主の思いや理念が顧客に伝わらないことがあっても、それを理由に挫けるような人は、そもそもカフェという選択肢を選ばなかったのだと信じたいです。

現代のカフェは、ただ美味しいコーヒーを提供するだけではなく、その空間や体験そのものが評価の対象となる時代に突入しています。ワークショップにラテアートや抽出のセミナー、異業種とのコラボ企画。かつて私は「パフェを作ろう」とお子様から大人まで楽しめるワークショップを開催しましたが予想を遥かに超えた反響でした。

経営者にとっては困難かもしれませんが、それこそが活性化ではないのかと考えます。街を彩る正義とはこのことです。コンセプトや店主の主張は確かに蔑ろにされるかもしれませんが、そこにもチャンスはあるのではないでしょうか。

様々なカフェ

カフェという名前を持つ店舗であっても、コーヒーが淹れ溜めされていたり、そもそもコーヒー自体が置いていないということも珍しくありません。

一方で、コーヒー専門店に目を向けてみると、「Brewers」「Roaster」「Stand」などの表現が使われることが多く、興味を持たない人にとっては意味不明な言葉に聞こえることもあるかもしれません。

  Brewers・・・「抽出」という意味です。コーヒーに特化した、と思って良いでしょう。

  Roaster・・・いわゆる「焙煎所」で豆を販売。もしくは豆の販売とカフェとして機能しているお店です。

  Stand・・・「~の場所」という意味があります。立ち飲みなわけではありません。

カフェのコンセプト


カフェが掲げるコンセプトや主張と、顧客が実際に求めるものの間には、常に微妙なずれがあります。そこは少し他の飲食店と違うのではないでしょうか。たとえば、店主が極上のブラックコーヒーを追求し、誠実の元、心を込めて提供したいと思っていても、現実ほとんどの顧客はカフェラテを注文するだけでなく、店主の人柄に惚れて通い続ける、なんてのはよく見られる光景です。結果として来客数は増えるので店主が魅力的であることに越したことはないのですが。このように、理想と現実のギャップはカフェ運営において、あって当然とまで言えるものなのです。

カフェブーム

体感ですが、2023年、コロナ禍が明けると同時に、カフェブームが起こったと思っています。この特徴は、「映え」を求める対象が、手元の商品だけでなく店舗全体の雰囲気や内装にまで広がったことが挙げられます。コーヒーをステムグラスで提供することも、もはや珍しいことではなくなり、カトラリーのデザインですら評価の対象となる時代となりました。SNSが静止画の写真投稿からショート動画に変化していったことで、1投稿の情報数が激増したことも要因のひとつでしょう。例えば手元の料理、店主、店内を投稿しようとすれば写真なら3枚、どんなに頑張っても2枚。動画なら5秒もあれば事足ります。さらに流行りのBGMを乗せることで視覚効果以上の印象を与える媒体となったのです。プロのインフルエンサーも次々と現れ今やその影響力はもはや脅威とすら言えます。お店の存在自体が「商品」となった、雑な言い方ですがそんな印象も確かに受けました。

コロナがなければもう少しゆっくりと時代が流れていたかもしれませんが、自粛期間中もSNSの進歩は止まりませんでした。コロナ明けから飲食店はせき止められていた塀が瓦解したように一斉にその波を受けなければならなくなったのではないでしょうか。

仕入れの高騰

現状、飲食業界は更に厳しい状況に直面しています。あらゆる食材(コーヒー豆も)の仕入れ価格は高騰し続け、さらに、今まで以上に気を配らざるを得ない店内の内装を維持するためのコストも莫大です。それにもかかわらず、顧客からは例えばコーヒーならば1杯500円程度の価格設定を求められる現状は変わらずで、利益率は圧迫され続けています。

カフェ、特にコーヒーを主軸に置くスタイルに求められる経営戦略は、通常の飲食店とは少し異なる側面を持っています。例えば、コーヒー豆の価格変動は非常に早く、トップクラスのコーヒーはそれ自体が抱える情報量がまず多い。グラインダーやドリッパー、エスプレッソ周りの製品は年々新製品が発表され情報のアンテナを張るだけでも努力を要します。何しろお客様はそういう情報を容易に手にすることができます。一方でSNSの流行の変化や、いわゆるZ世代が求める価値観をどんなに煩わしくても、常に意識する必要があります。テリーヌやプリン、チーズケーキなど普遍の人気、つまり当然に期待されるアイテムとなったカフェの必須メニューもここ数年の話だったのではないでしょうか。これらの要因を無視して経営するには、相当する実力と資金力が必要です。

理想的なコーヒー豆の品質を追求するためのリソースを確保できない場合、他の商品で利益を補填せざるを得なくなります。新商品の市場調査や試作、材料の調達などに追われ、本来追求したかったコーヒーの品質向上に時間を割くことが難しくなる。かつて、美味しいチーズケーキが出来れば喜び、ニコニコと営業を続けることができた時代は、もはや過去のものとなりつつあります。

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