自家製シロップを作る時の衛生管理

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砂糖水

シロップのはなし」の冒頭で述べたように、シロップとは高糖度の液体のことを指します。保存性の観点から考えると、糖度が55%以上であることが望ましいと言われています。最もシンプルなシロップのレシピについて見ていきましょう。

例えば、水100gに対して砂糖125gを加えて溶かすと、糖度55%の砂糖水が作れます。この濃度は微生物の活動を制限するために効果的とされるラインです。砂糖の水に対する溶解度は温度によって異なります。例えば、20℃では水100gに対して約204gの砂糖が溶け、70℃では325g、90℃では420g、そして100℃では476gまで溶解します。つまり、砂糖の量が水の1.25倍程度であれば、火を使わず常温で十分に溶かすことが可能です。

シロップを作る際、3ヶ月以内に消費する場合は、必ずしも糖度55%を目指す必要はありません。水100gに対して砂糖100gを溶かした糖度50%の砂糖水でも、冷蔵保存であれば十分な保存性を確保できます。このように用途や保存期間に応じて砂糖の濃度を調整することが可能です。あくまで、糖度はあなたの「美味しい」に従うべきです。

容器と消毒・殺菌

砂糖水に限らず、糖度50%の基準はあくまで食品に含まれる微生物の活動を制限するためのものです。もうひとつ、シロップを保存する容器や器具自体の衛生管理にも十分に注意を払う必要があります。

  • 5–10分以上の煮沸殺菌
  • 有効塩素200ppmの塩素による消毒

塩素消毒について

塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を水に加えると、次亜塩素酸(HOCl)が生成されます。この次亜塩素酸は強力な酸化剤で、微生物やウイルスの殺菌に非常に効果的です。次亜塩素酸は、以下のようなメカニズムで作用します。

  1. 細胞膜の破壊: 次亜塩素酸は微生物やウイルスの細胞膜を酸化し、構造を破壊します。細胞膜が壊れると、細胞内の成分が漏れ出し、微生物は死滅します。
  2. DNAやタンパク質の損傷: 次亜塩素酸やそれが放出する活性酸素は、微生物のDNAやタンパク質を酸化し、その機能を失わせます。

塩素消毒は広範な微生物(細菌、ウイルス、カビなど)に効果を発揮します。かつ作業としては煮沸消毒よりも簡単です。では、市販のハイターなどを使用して殺菌を行う場合はどのようになるでしょうか。

  • 市販のハイターの有効塩素濃度は5–6%(1% = 10,000ppm)です。これを200ppmに希釈するには、以下の計算式を使います。

(加えるハイターの量(ℓ))=200ppm ×(使用する水の量(ℓ))÷(ハイターの濃度(ppm))

例えば、5%のハイターを1ℓの水に加える場合:

200×1÷50,000=0.004ℓ

つまり、1ℓの水に4mLのハイターを加えることで200ppmの溶液を得ることができます。

消毒に必要な時間

  • 食品や調理器具の消毒: 2–5分程度の浸漬で十分です。その後、必ず水でよくすすぎ、残留塩素を除去してください。
  • 手指や皮膚の消毒: 塩素濃度200ppmは高すぎるため、手指消毒には適していません。別の専用の消毒剤を使用してください。
  • 環境表面(机、床など)の消毒: 5–10分程度放置することで効果的な消毒が期待できます。その後、水拭きで塩素を拭き取ります。
  • ウイルス(例: ノロウイルス)の消毒: 次亜塩素酸ナトリウムは特に効果的で、200ppmでは10分程度の接触が推奨されます。必ず対象物を完全に覆い、乾燥させないよう注意してください。

塩素殺菌を実施する際には、事前に汚れをしっかりと取り除くことも重要です。汚れが残っていると塩素の効果が減少するため、十分な清掃を行ってから消毒を行います。

ここまで衛生管理に気を配ったとしても、果実を使ったシロップ(例えばレモネード用のシロップ)ではカビが生える可能性があります。特に、非加熱で作る場合にはリスクが高まります。また、特に果物のヘタ部分は構造が複雑で、微生物や汚れがたまりやすい場所です。ヘタには虫や細菌が付着していることが多く、完全に取り除くことは難しいため、シロップ作りの際には必ずヘタを取り除くようにしましょう。

例えば、いちごのヘタ部分にはサルモネラ菌や大腸菌が存在している可能性を排除すことは難しいのです。これらの菌が混入すると、シロップの保存中に増殖し、品質を損なうだけでなく健康にも影響を及ぼす可能性があります。

「美味しい」を長期保存できるシロップですが、作る際には細部にわたる衛生管理が必要です。家庭であっても。

  • 使用する容器や器具はしっかりと消毒・殺菌する。
  • 果物を使う場合は、汚れやヘタをしっかりと取り除く。
  • 作成後は冷蔵保存を徹底し、できるだけ早めに消費する。

長期賞味期限のシロップと、秒単位で変化していくコーヒーは相反する位置にある物質です。変質が激しいコーヒーを祈るように丁寧に抽出する人は珍しくもない素敵な姿です。シロップの仕込みも、同様にありましょう。

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