コーヒーはまずい
現代では、コンビニのコーヒーマシンやファミリーレストランに設置されている全自動コーヒーマシンが当たり前になりました。これらの機器は、一見するとシンプルな操作性を持ちながらも、実は驚くほどの高性能を誇ります。メーカーに仕組みや性能について詳しく尋ねてみると、その先進性に目を丸くすることもあるでしょう。しかし、ここで疑問が湧きます。なぜ、そこまで高性能である必要があるのか。それは、コーヒーとは元来、「まずい」液体だからです。
かつて人類は、この「まずい」飲み物をどうにかして摂取するために、砂糖やミルクをたっぷりと加えていました。言い換えれば、コーヒーの歴史はその「まずさ」と戦い続けてきた歴史でもあります。やがて時代が進むと、スターバックスをはじめとするブランドの台頭により、コーヒー文化は新たなフェーズへと移行しました。これは「セカンドウェーブ」と呼ばれる潮流であり、今やスターバックスの成功を見れば一時のブームではなく、文化として定着したといえます。
甘いコーヒーへの進化とサードウェーブ
「スターバックスのコーヒーは美味しいのか?」という問いに対する答えは当然に消費者の主観に委ねられます。しかし、サードウェーブと呼ばれるコーヒー文化の次なる段階では、「酸味」が最も重視されるようになりました。(重視は一般消費者基準ではなくコーヒーの品評会基準のことを指します。)この酸味の評価軸は、コーヒーに含まれる豊富な油分と相まって、甘味を錯覚させる効果があります。もちろん、実際に糖度は検出されるのですが。果物を思わせるような華やかな酸味と、それに伴うとろみのある質感が、自然で極上の甘さを感じさせるのです。
ここで重要なのは、「甘い=美味い」という感覚が、コーヒーの世界においても否定されることがないという点です。砂糖やミルクを加える従来の方法に対する賛否はあれど、甘味の追求はスペシャルティコーヒーの世界においても重要なテーマであり続けています。
甘さの「必要」性
私はこれまで、北九州市、東京、福岡市のカフェで商品開発に携わってきました。その中で感じたのは、「甘い商品」の必要性です。例えば、福岡市天神近くで携わった「cafe mitu」では、全席GUCCIの椅子を使用し、華やかなデザートで空間を演出するスタイルを採用しました。この店でのABC分析を行ったところ、売上の上位1位2位を占めていたのは、常にコーヒーとカフェラテでした。これらの商品の中心にはエスプレッソがあり、しっかりと日々調整されたエスプレッソの品質が、スタッフによるバリスタ技術のばらつきを補う役割を果たしていました。
ここで興味深いのは、コーヒーやカフェラテを注文するお客様の多くが、甘いデザートへの「リスクヘッジ」として、シンプルな飲み物を選んでいるという点です。また、ABC分析においてコーヒードリンクが売上の上位を占める一方で、全体の75%を甘いドリンクが占めていたという事実が存在します。月に平均2,000人以上の来客がありましたが、そのうち約1,500人が甘いデザートと甘いドリンクを組み合わせて注文していたという事になります。
つまり、「甘いは美味い」だけでなく、「甘いは売れる」は、もはや市場原則ともいえると明らかになったのです。
看板商品にノンシュガー商品を置くには相当なニッチな挑戦になりそれを凌駕するだけの相応のブランド力が必要となります。それだけの実績があれば話は別ですが、甘いものは老若男女喜んでいただけるという事実にまずは向き合ってはどうでしょうか。もっと穿った言い方をすれば高カロリーは常に需要がある、です。ただ、高カロリーは贅沢の象徴ですが、良い甘みは上質の象徴です。「甘いは売れる」とは言ってもそこに美味しいが付随しなければただの下手な商品になってしまいます。さらには添加した甘みと食材が本来持つ甘みは区別して考慮するべきでしょう。
甘さがコーヒー業界にもたらすもの
冒頭でも触れましたが、スペシャルティコーヒーの世界でも、甘さの追求は重要です。果物や野菜、さらにはお肉などの食品でも同様に、甘味が美味しさを構成する一因であることに変わりはありません。コーヒーの世界でも酸味や質感の評価の重要性が高まるにつれて、その自然な甘味が注目されるようになりました。ただ、しかし、これはコーヒー豆本来の品質の話で私が紹介できる範疇を超えます。
コーヒーを楽しむための「甘さ」
本ブログでは、これまで私が作ってきた商品の紹介をはじめ、コーヒーをベースにした「甘くて美味しい」レシピを公開していきます。これらのレシピを通じて、コーヒーの楽しみ方を広げるお手伝いができれば幸いです。また、コーヒーにこだわりすぎることなく、むしろコーヒーを使わない商品とレシピの紹介も積極的に行っていきます。
コーヒーの歴史は確かに「まずさ」との戦いから始まりましたが、今やその多様性と深みは、私たちに新たな味覚体験を提供しています。砂糖が身体に及ぼす影響は今更語るまでもありませんが、いいじゃないですか。たまには。その瞬間のためにとびっきりのレシピを公開します。