いつからコーヒーに砂糖を入れ始めたのか?
コーヒーに砂糖を入れる、つまり甘くして飲む習慣は、一体いつから始まったのでしょうか。コーヒーの歴史、その起源には諸説ありますが、一番古い説では9世紀とされています。当時のエチオピアで、羊飼いのカルディが偶然発見したコーヒー豆が、後に飲料として楽しまれるようになったという有名な逸話があります。この発見がやがてアラビア半島を経由してイスラム世界へ広まり、ついにはヨーロッパやアジアに伝播していく中で、いったいどのようにしてコーヒーと砂糖の組み合わせが生まれたのでしょう。
最初にコーヒーに砂糖を加える習慣が記録されたのは、1600年頃のエジプト・カイロです。カイロは当時、イスラム世界における文化と商業の中心地であり、多くの交易品や新しい文化が交錯する場所でした。そのため、新しい飲み物であるコーヒーもここで大いに発展し、アレンジされる余地が生まれたと考えられます。原産国(とされる)エチオピアも陸続きです。当時すでに文化として根付いていたことに疑う余地はありません。
そして、カイロを訪れたヨーロッパ人のヴェスリンゼウスは、そこで砂糖入りコーヒーを目にし、この新しい飲み方をヨーロッパに持ち帰りました。これがヨーロッパ全土に砂糖入りコーヒーの習慣が広まるきっかけとなったのです。
さらに、トルコでは「コーヒーは甘くなくてはならない」という格言が生まれるほど、砂糖入りコーヒーが一般的だったといいます。トルコでは15世紀から16世紀にかけてコーヒー文化が隆盛を迎え、オスマン帝国の宮廷でもコーヒーは重要な飲み物とされていました。この時代、砂糖は高価で貴重な商品であり、飲料に砂糖を加えることは、単なる味覚の調整以上に、社会的ステータスを象徴する意味もあったと考えられます。
さらに、一方で、1660年頃、中国に滞在していたオランダの外交官ニイホフがコーヒーに牛乳を加える飲み方を提案したとされています。この組み合わせは当時のヨーロッパでも注目を集め、やがて広く普及するようになりました。このようにして、コーヒーは砂糖や牛乳と組み合わされることで、その飲み方の多様性が広がり、飲料としてあるいは嗜好品としての魅力を増していきました。
なぜカイロが砂糖入りコーヒーの発祥地となったのでしょうか?
カイロがコーヒーに砂糖を加える文化の発祥地となった背景には、いくつかの要因が考えられます。そのひとつは、カイロが1510年頃に世界初のコーヒー店を開いた場所とされている点です。このコーヒー店では、人々がコーヒーを飲みながら交流し、商談を行う場として賑わいを見せていました。コーヒーがただの飲み物ではなく、「社交の道具」として広がっていく中で、商品価値を高める工夫として砂糖が加えられた可能性が高いです。
また、コーヒーに砂糖を加えることが当時のエジプト社会でどのような意味を持っていたのでしょう。砂糖の価値そのものの違いが重要です。8世紀のエジプトでは砂糖の栽培と精製が自国で行われており、比較的手に入りやすい存在でした。一方、17世紀のヨーロッパでは、砂糖はまだ非常に高価で貴重なものでした。この時代、砂糖を飲み物に加えるという行為は贅沢の象徴であり、エレガントで洗練されたアイデアと捉えられていたことは想像に難くありません。
さらに、砂糖の使用は、単なる味覚の向上以上の役割を果たしていた可能性もあります。おそらく当時はコーヒーの苦味も渋みも相当だったでしょうがそういう特性を持つ飲み物である一方、砂糖はその苦味渋みを和らげ、より多くの人々に受け入れられる味を提供しました。これにより、コーヒーの消費が一部の特権階級の中でもニッチな嗜好からより多くの人に好まれる契機となったとも考えられます。
砂糖入りコーヒーの文化
砂糖入りコーヒーは、その味覚的な面だけでなく、社会的、文化的な意義も持っていました。例えば、砂糖はアラブ世界やヨーロッパにおいて「甘さ=贅沢」を象徴しており、コーヒーと組み合わせることでそのステータスをさらに高めました。特にイスラム文化圏では、アルコールの摂取が禁じられているため、コーヒーが「嗜好品」としての役割を果たしていました。その嗜好品に砂糖を加えることで、さらなる満足感が得られるよう工夫されていたのです。
ヨーロッパにおいても、コーヒーと砂糖の組み合わせは次第に「上流階級の象徴」となり、宮廷や貴族の間で好まれるようになりました。1645年からコーヒーハウスと呼ばれる場がロンドンやパリで登場し、知識人や富裕層の社交場として機能する中で、砂糖入りコーヒーは上品さや洗練を象徴する飲み物として位置付けられました。
近代における変化
その後、産業革命を経て砂糖の生産が拡大し、価格が下がるにつれて、コーヒーに砂糖を加えることは一般的な習慣となりました。19世紀にはコーヒーは庶民の飲み物として広がり、砂糖も手に入りやすくなったことで、砂糖入りコーヒーは世界中で標準的な飲み方として定着しました。さらに、20世紀に入るとインスタントコーヒーの普及や、カフェ文化の発展に伴い、コーヒーの楽しみ方も多様化しました。そして21世紀現在、コーヒー(カフェラテ)にキャラメルやチョコレートシロップを加えた商品が普及していますが、実はまだ歴史は浅いのです。
コーヒーに砂糖を加えるという習慣は、カイロで始まり、単なる味の工夫にとどまらず、その後のコーヒー文化を形作る重要な要素となりました。砂糖はコーヒーの苦味を和らげると同時に、その価値を高め、社交の場での人気を支える役割を果たしてきました。また、砂糖入りコーヒーの広がりは、時代や地域ごとの砂糖の経済的価値や社会的象徴を反映しており、歴史を通じて多くの文化に影響を与えてきたのです。現代のアレンジのベースはエスプレッソを元にしたものが主流です。家庭用エスプレッソマシンは日本でも徐々に普及しつつあります。コーヒーのアレンジは遊びである側面を持ちつつもより深くクリエイティビティにコーヒーというものに触れるための手段でもあるのです。