5.豆を挽く|粒度による味の変化

コーヒーは豆を挽いてから抽出を始めます。豆を挽く器具はまず手動と電動に分かれます。手動であれ電動であれ価格差は大きく開いています。価格が高ければ高品質なのか。今の時点ではそれは当てはまります。グラインダーやミルの高品質とはどういうことなのでしょう。ずばり均一に挽ける精度を示します。均一さの精度が何故重要なのかをまず説明します。

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豆を挽く

コーヒー豆を挽くという現象は卵を割るのとは意味合いが違ってきます。前章の通りコーヒー豆の繊維は多孔質となっていますので、砕いて表面積を増やせばその分成分が溶け出しやすくなります。
コーヒー豆を挽いたとき、表面積は大幅に増加します。一般的に、コーヒー豆を粉砕すると元の豆の100倍以上の表面積になると言われています。

コーヒー豆の表面積の変化は、粒度(挽き目の粗さ)によって異なります。以下はおおよその目安です。

挽き目目安の直径(mm表面積の増加倍率(概算)
豆のまま約10mm1倍
粗挽き約1mm約100倍
中挽き約0.5mm約200倍
細挽き約0.3mm約300倍
極細挽き(エスプレッソ)約0.1mm約600~800倍

なぜ表面積が増えると重要なのか?

  1. 抽出効率が向上:表面積が大きくなるほど、水との接触面積が増え、コーヒーの成分が速く溶け出す。
  2. 味の変化:細かく挽くと苦味やボディが強くなり、粗く挽くとスッキリとした味わいになる。
  3. 抽出時間に影響:エスプレッソのように短時間で抽出する場合は、極細挽きにすることで適切な濃度を得る。

しかしより成分を抽出すれば良いという訳ではなく狙った抽出結果から逆算して挽く細かさを決めます。

均一性の必要性|粒度による味の変化

品質のあまり高くない器具で豆を挽くと粒の大きさがまばらになります。微分が出るとよく言われますが、粗挽きの粒の中にエスプレッソ挽きが混ざっているようなイメージです。そうすると例えば、粗挽きの抽出効率をもとにした抽出ではエスプレッソ挽きに当たる部分は過抽出(エグ味や強い苦味を伴う)になります。そういった成分が混入すればネガティブな複雑さを形成してしまいます。ネガティブな成分はポジティブな成分より遥かに強い印象を与えます。「それくらい」と思ってしまうでしょうが、過抽出のネガティブさはおそらく想像以上の不快感です。特にスペシャルティなどの個性が強く、その個性を楽しむためにはネガティブな複雑さというのは良い方向には働きません。深煎りにおいてはその抽出効率のばらつきを味のグラデーションと捉えている人もいますのでハッキリとは言えません。ただ言ってしまえば、ある程度品質の高さはあるに越したことはない、です。

グラインダーやミルには大きくエスプレッソ用とそれ以外で分かれます。エスプレッソ用はとても細かく挽け、その細かさの中での均一性を目指したものです。価格も大きく変わってきます。「エスプレッソも挽ける!」という謳い文句はよく見ますが、粗挽きの均一性の低さから目を逸らさせるような製品も見受けられます。ハンドドリップに適した製品とは粗挽きの均一性に特化したものが良いでしょう。

味の変化

グラインダーやミルはダイヤルによって粒度を調節できます。1メモリ変わるだけでコーヒーは驚くほど味の変化が起こります。「何かパッとしない」そういう印象でも引き目をほんの少しずらすだけで味が明るくなったり曇ったりと様々な顔を見せてくれます。コーヒーの面白さの一つです。これに関しては豆の個性によるところが大きい、つまり焙煎士の腕も影響してくるので一度淹れてみてそこから調整する、という行為が必ず必要になります。大雑把な傾向として浅煎りは細かめ、深煎りは粗めと言われています。

あとがき

2013年に登場したコマンダンテ。ハシリの頃は手挽きになんでこんな大金払わないといけないんだ、という意見が主流だったのを覚えています。その後2016年にモデルチェンジを起こしタイムモアがハンドミルを発表したのも追い風になったのか2023年頃からのハンドミル旋風はいまだに止む様子がありません。

浅煎りの豆は水分量も深煎りより多く密度も高い、つまりは硬い傾向にあります。今までの家庭用電動ミルではモーターに負担がかかりすぎて止まってしまったりということもあって、ブレード(刃)のスペックに価格の全振りをしたハンドミルは、そうすると理にかなっているのかもしれません。

粒度による味の変化は私がコーヒーにのめり込む速度を加速させました。粒度に対する抽出方法の対処も長いこと検証してきました。スイートスポットという考え方があります。適したエイジング、適した粒度、抽出全てがマッチした時になんとも言えない心地良さと甘みを感じる設定です。このスポットは刹那的で昨日は良かったのに今日は外れている、ということが当然に起こります。その調整技術こそがバリスタの根底に求められる能力だと思っているのです。

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