コーヒーアレンジと濃厚さの関係
ミルク、フレーバーソース、シロップ――これらを加えてコーヒーをアレンジすることで、さまざまな楽しみ方が広がります。しかし、これらのアレンジを受け入れるためには、コーヒーには一定以上の濃度が求められることをご存じでしょうか。たとえば、水で薄めた牛乳を想像してみてください。美味しそうには感じられないでしょう。「濃厚さ(濃度)」は「美味しい(満足度やリッチ感)」に直結する要因です。
もちろん濃ければ濃い方がより「美味しい」という訳ではありません。「適度」は必ず存在します(当然個人による主観も)。より濃厚な紅茶が美味しいのか、です。しかしミルクをベースとした乳製品、もっと言うと油質や脂質を主体に「美味しい」を構成するためには水分量は少ない方が良いです。濃厚なアイスクリーム、濃厚なチョコレート、濃厚なシチューなどキリがありませんが濃厚さは確かにメリットとし働きます。また油質や脂質は甘さをソフトに感知させる役割も持ちます。ソフトに、と言うのは味覚が感知する順番です。ソースやシロップを用いた際に甘さよりも僅かに先に油質や脂質から「なめらかさ」を感知するのです。「甘い」と言う印象は鋭く強烈です。なのでその印象を少しでも遅らせることで飲み物全体の味・香りをより感知しやすくしてもらうのです。
「美味しい」には構成要件が存在します。そのコントロールを得るために濃度を中心に分解していきましょう。
「濃厚さ」
濃厚さとはつまり何なのか。それは水分含有量です。その液体(物質)にどれだけ水が含まれているか、です。先ほどの述べたように水分量が多い=悪では無いです。場合によります。
最近では、TDS(Total Dissolved Solids、総溶解固形物濃度)という指標を使ってコーヒーの濃度を測定することが一般的になっています。このTDSは、糖度計で使用される測定方法と似ていますが、糖分だけでなく液体に溶けているすべての成分を検知するため、「その液体にどれだけ物質が溶けているか」を数値として表します。コーヒーの濃度を科学的に測るこの指標を用いることで、アレンジコーヒーの濃厚さを分析していきます。
まずペーパーフィルターを使って抽出する一般的なドリップコーヒーについて考えてみましょう。ドリップコーヒーは紙フィルターを通すため、コーヒー豆の油分や微細な粒子はほとんど取り除かれ、液体自体は非常にクリアになります。そのため、TDSは比較的低く、一般的には1.2%から1.5%の範囲です。
つまり、ドリップコーヒーの約98%以上は水ということになります。私たちが普段飲んでいる「コーヒー」が実際にはほとんど水で構成されているという事実は、濃厚さを求めるアレンジコーヒーのベースとしては課題があると言えます。
ドリップコーヒーにアレンジは向かないのか?
「ドリップコーヒーではアレンジができないのか」と疑問に思う方もいるでしょう。結論から言うと、アレンジ可能ですが、工夫が必要です。濃度を上げるには、通常より多めのコーヒー豆を使い、ゆっくりと抽出することで濃厚な液体を得ることができます。
たとえば、15gのコーヒー豆を使用し、約3分かけて100–120ccの濃いコーヒーを抽出してみてください。この濃いコーヒーを牛乳で割ると、薄くなりすぎず美味しいカフェオレが楽しめます。ただし、やはりドリップコーヒーでは限界があり、濃厚さの点ではエスプレッソには劣ります。
エスプレッソのTDSと濃厚さ
次に、エスプレッソについて見ていきましょう。エスプレッソは、その抽出方法と構造によって、コーヒーの濃度を極限まで高めた飲み物です。エスプレッソのTDSは一般的に9–11%とされています。ドリップコーヒーのTDS(1.2–1.5%)と比較すると、約9倍の濃度を持つことになります。
このような高濃度の液体がエスプレッソの「濃厚すぎる」というイメージにつながっているのかもしれません。しかし、アレンジコーヒーのベースとしては、これほどの濃度がむしろ理想的なのです。エスプレッソの濃度が高いことで、ミルクやシロップを加えても風味が薄れることなく、濃厚な味わいを楽しむことができます。
エスプレッソとドリップコーヒーの比較
エスプレッソとドリップコーヒーを使ったアレンジコーヒーを比較するために、200gのカフェオレを作る場合を考えてみましょう。
ドリップコーヒーの場合
- ドリップコーヒーのTDSを1.5%と仮定します。
- コーヒー部分100g中、1.5gがコーヒー成分で、残りの98.5gは水です。
- これに牛乳100gを加えると、全体の水分量は約98.5g(コーヒーの水分部分)+ 90g(牛乳中の水分)= 188.5gになります。
- 結果として、コーヒーの風味成分はわずか1.5gしか含まれないため、味が薄く感じられます。
エスプレッソの場合
- エスプレッソのTDSを10%と仮定します。
- コーヒー部分30g中、3gがコーヒー成分で、残りの27gは水です。
- これに牛乳170gを加えると、全体の水分量は27g(コーヒーの水分部分)+ 153g(牛乳中の水分)= 180gになります。
- この場合、コーヒー成分は3g含まれるため、ドリップコーヒーよりも濃厚な味わいが保証されます。
このように、TDSが高いエスプレッソを使用することで、濃厚なアレンジコーヒーを作ることができるのです。
アレンジコーヒーにはエスプレッソが最適
- 濃厚さの保証
- エスプレッソの高いTDS(9–11%)が、ミルクやシロップを加えた際にもコーヒーの風味をしっかりと保ちます。
- バランスの良い味わい
- 高濃度のエスプレッソは、ミルクや甘味料との相性が抜群で、カフェラテやカプチーノ、モカといった人気メニューのベースとして利用されています。
- 効率的な抽出
- 短時間で高濃度のコーヒーを抽出できるため、効率的で安定した品質のアレンジコーヒーが作れます。
質感
エスプレッソには油分が多く含まれていてそれは粘性に繋がります。油質だの脂質だのお読みになってて胸焼けがされた方には申し訳ございません。しかし口内で感じる質感、これをテクスチャーと呼びます。香り・味はフレーバーと呼びます。テクスチャーとフレーバーで「美味しい」は構成されているのです。冒頭でも述べましたが「適度」「主観の最適度」は必ず存在します。水分量のコントロールはテクスチャー、フレーバーどちらにも大きくダイレクトに影響します。こうやって「美味しい」は構築されていくのです。