7.抽出の考え方と工程

抽出とはある物質から特定の成分を取り出すことです。コーヒーには心地い良く感じる成分も不快に感じる成分も含まれています。その中から心地良い成分だけを取り出すことを抽出すると呼びます。根本的な知識として、未抽出過抽出があります。字の通り、心地良い成分が十分に抽出出来ていない状態を未抽出不快な成分が多く抽出されてしまった状態が過抽出です。そして抽出というのは熱量と時間、圧に影響を受け進みます。例えば強い圧をかけて抽出するエスプレッソならば30秒、100℃近いお湯で時間経過だけで抽出するフレンチプレスならば4:00、常温以下の水で抽出する水出しはおよそ8時間かかります。

ではハンドドリップはどうでしょう。これは大きくはドリッパーの形状に依存します。水流の動線が変われば圧のかかり方に変化が生まれます。ペットボトルなどから水を流す時、ペットボトルを横回転にぐるぐると回すと早く水が抜けることをご存知でしょうか。極端な例ですがドリッパーの違いはその水の流れるスピードがまず違います。それがどう違うのかは経験していただく他にないです。

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考え方

コーヒー豆を食材として捉えた時、セミナーでは焼肉に例えてお話しさせてもらっています。未抽出が生肉、過抽出がコゲ。その間はグラデーションの「美味しい」でありさらに各々の「好き」のポイントが存在します。抽出という現象は、一方向への変化であり区切りのないグラデーションです。我々日本人はお茶の文化に慣れすぎているのでしばしばお茶の抽出と混同しがちですが、コーヒーの過抽出はコゲ同様「美味しい」からは程遠いのです。つまり抽出は、どのポイントで抽出を終えるかがまず大事な要素になります。そのポイントは時間を指標にします。

抽出を促進させる

エスプレッソが最たるものですが抽出は圧をかけることによって促されます。ペットボトルの例えに加えますが、お風呂の栓を抜いた時、水面と排水口ではどちらが圧が高いのかは想像に難くないと思います。透過式と呼ばれるハンドドリップに置いての抽出促進は水流に依る圧のかかり方そのものです。

圧と促進

この時にかかる圧とは浸透圧のことです。濃度の違う液体が接した時、同じ濃度になろうと働く力を浸透圧と呼びます。コーヒーの粉から成分が染み出てくる→お湯で薄まる→濃度を一定にしようとより成分が引き出されるが繰り返し行われます。水流が早く力強いほどより成分が引き出される、という仕組みです。また注いぐ、止めるを繰り返すことで水位が低い状態では表面張力も働き浸透圧に加担します。

抽出の工程

抽出は大きく、蒸らし、抽出、希釈の段階に分かれます。先述しましたが各工程は分かれていても抽出自体は断続的ではなく連続性をもって進みます。あくまでレシピ上の工程ということになります。

蒸らし

他章でも何度か触れましたがコーヒーの繊維は多孔性といい幾つもの微少な穴が空いています。その空洞にはガスが含まれており、水分と熱でそのガスを排出し成分が染み出しやすい環境を作ることが蒸らしと呼ばれる工程です。抽出されるコーヒーは蒸らしの状態であっても熱と水の影響を受けており、準備の段階である蒸らしの状態でも、抽出はゆっくりと進行しています。このコーヒーの成分が水に溶け出す仕組みは毛細管現象と呼ばれる現象です。

例えば10gで120ccの出来高を求めるなら、注湯総量を150ccとしましょう。抽出は時間で進みますのでそのコーヒーの最も適した抽出時間を仮に3分としましょう。3分かけて150cc注ぐのは至難の技であり相当なストレスです。蒸らし工程はその時間の帳尻合わせも担う工程です。

抽出

成分が染み出しやすい(毛細管現象が起こりやすい)環境が出来たら先に述べた浸透圧の原理をもって抽出を行います。この時、注ぐタイミング(表面張力)注ぐスピード(浸透圧)をコントロールし、味の中核である成分のコントロールを行います。

豆によって、または焙煎によって染み出す成分の種類とタイミングは異なるので一度淹れてみた結果を元に相対的に判断するしかありません。ここは経験が全てです。

希釈

心地良い成分のあとは不快な成分が染み始め、過抽出の領域となります。そうならないために目的の抽出量まで注ぐスピードを早めていきます。

バイパスと呼ばれる、ドリッパーを外して直接お湯を注ぐ手段もあります。

コーヒーはより強く多く成分を抽出すればいいというものではなく、希釈の度合いで印象がガラッと変わります。抽出には、未抽出以上過抽出以内という目安がありますがどの濃度を心地良いと思うかは完全に飲み手の好みに分かれます。

あとがき

私は知識よりも経験が先にあったのでこの伝え方が正しいのかは分かりません。が、良し悪しが個人の官能的評価に委ねられるので実際淹れて飲んでの繰り返ししかないとやはり思います。ドリッパーの中で今何が起こっているのか。言語化せずともイメージとして持てるようになると抽出は決して難しいものではなく、安定して(自分の許容範囲)コーヒーを淹れられるようになるとたくさんの種類のコーヒーをより楽しめるようになるのではないでしょうか。コーヒー豆は食材です。でもこんなにも多種多様な種類のある食材を他に知りません。淹れ方が安定してくるとその素晴らしさをより具体的に享受できるようになります。

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