砂糖に香りを移す仕組みとその活用法

この記事でわかること

料理やお菓子作りの際、ふんわりと香るバニラシュガーやシナモンシュガーを使うとぐっと風味が増しますよね。これらは砂糖に香りが移る性質を利用して作られています。では、なぜ砂糖に香りが移るのか? どの種類の砂糖が香りを吸着しやすいのか? そして、加熱による影響は? 今回は砂糖と香りの関係について詳しく解説していきます。


目次

砂糖に香りを移す

砂糖と香りの関係

砂糖自体に甘い味わいはありますが、基本的に香りはありません。しかし、特定の環境下では香りを吸着する能力を持っています。この性質を利用すると、バニラビーンズを加えた「バニラシュガー」や、シナモンを加えた「シナモンシュガー」など、風味豊かな調味料を作ることができます。

砂糖が香りを吸着する理由には、

  • 表面の構造(粒子の大きさや形状)
  • 含水率(砂糖に含まれる水分量)
  • 香り成分の種類(揮発性や脂溶性)
    などが関係しています。

香りが移る仕組み

砂糖の表面は多孔質であり、また水分をわずかに含んでいるため、揮発した香り成分を吸着しやすい性質を持っています。香りのもととなる物質は「揮発性有機化合物(VOC)」と呼ばれます。これらの成分は空気中に拡散し、近くにある物体の表面に吸着します。

1. 香り成分の拡散

例えば、バニラビーンズの主要な香り成分である「バニリン」は、温度や湿度の影響でゆっくりと空気中に放出されます。

2. 砂糖の表面への吸着

砂糖の表面には小さな凹凸があり、香り成分が付着しやすくなっています。特に、しっとりとした砂糖(上白糖や和三盆)は吸湿性があり、揮発性成分を保持しやすい特徴があります。

3. 時間とともに香りが均一に広がる

密閉容器に入れておくと揮発性成分が砂糖全体に行き渡り、均一に香りが移ります。

このようにして、砂糖はゆっくりと香りを吸着し、長く保持することができるのです。


砂糖に香りを移しやすい食材・スパイス

香りを移すのに適した食材やスパイスには、以下のようなものがあります。

熱に強く、加熱しても香りが残るもの

  • バニラビーンズ(バニリン)
  • シナモン(シンナムアルデヒド)
  • クローブ(オイゲノール)
  • コーヒー豆(ピロリジン・フラン類)

熱で揮発しやすいため、加熱後に加えるのがベストなもの

  • 柑橘の皮(レモン・オレンジ)(リモネン)
  • ミント(メントール)
  • ラベンダー(リナロール)

このようにスパイスやハーブの特性を理解しておくと、適切な使い方ができます。


加熱による揮発

香りは温度が上がると揮発しやすくなりますが、例えばコーヒーに加えるとして、90℃程度では成分によって飛びやすいものと残るものがあります。

90℃で比較的残る香り成分

  • バニリン(バニラ)
  • シンナムアルデヒド(シナモン)
  • オイゲノール(クローブ)

90℃で揮発しやすい香り成分

  • リモネン(柑橘類)
  • リナロール(ラベンダー)
  • メントール(ミント)

香りを生かすためには、加熱に強いものは調理中に使用し、揮発しやすいものは仕上げに加えるとよいでしょう。


砂糖の種類別 香りの吸着率と吸着時間

砂糖の種類によって、香りの吸着率や移るスピードが異なります。

砂糖の種類粒の大きさ含水率吸着しやすさ吸着時間の目安
グラニュー糖大きいほぼ0%★☆☆(低め)1週間〜2週間
上白糖約1.5%★★★(高め)3日〜1週間
三温糖約2%★★★(高め)3日〜1週間
粉砂糖非常に細かいほぼ0%★★☆(中程度)1日〜3日
和三盆細かい約5%★★★★(非常に高い)1日〜3日
黒糖粗め約5%★★★★(非常に高い)1日〜3日

和三盆や黒糖は香りを強く吸収し、保持力も高いので、香りを長く楽しみたい場合に適しています。


砂糖の原材料による吸着差

一般的には、コーンシュガー、サトウキビ糖、甜菜糖はいずれも主成分はショ糖ですが、製造工程や精製の度合い、結晶の大きさ、含水率などの違いから、香り成分(揮発性有機化合物)の吸着率に微妙な差が出ることがあります。

コーンシュガー

  • 特徴:コーンシュガーは、トウモロコシ由来の糖で、製品によっては粒が比較的細かく、表面積が大きくなる場合があります。
  • 吸着の傾向:粒が細かい場合、短時間で香りを吸着しやすい可能性があります。ただし、非常に乾燥していると水分が少なく、香り成分との相互作用がやや弱くなることも考えられます。

サトウキビ糖

  • 特徴:サトウキビから作られる糖は、製造過程で不純物やモラセスがわずかに残る場合があり、そのため含水率がやや高いことがあります。
  • 吸着の傾向:含水率が高いと、香り成分が砂糖の表面に吸着しやすくなるため、比較的香りの移りやすい性質を示す場合があります。

甜菜糖

  • 特徴:甜菜糖は一般的に高度に精製され、均一な結晶を持つことが多いため、含水率が低く、乾燥した状態になりやすいです。
  • 吸着の傾向:精製度が高い分、他の糖種に比べると香り成分の吸着効率はやや低くなることが考えられますが、均一な結晶形状は香りが拡散する際の一貫性をもたらす場合もあります。

まとめ

  • 吸着率の違いは微妙であり、どの砂糖を使用するかは、最終的な風味の狙いや使用目的に依存します。
  • コーンシュガーは粒が細かい製品であれば香りを速やかに吸着する可能性があり、
  • サトウキビ糖は含水率の影響で比較的香りが付きやすい傾向、
  • 甜菜糖は精製度が高いため、香りの吸着はやや控えめになるかもしれません。

なお、これらの傾向はあくまで一般論であり、実際の吸着率は各製品の状態や保管環境、さらには使う香り成分の種類にも左右されるため、実際に試してみるのが確実です。

果糖(追記)

一般的に、果糖は他の砂糖に比べて水分を吸収しやすい特性があり、結晶があまり均一ではなくアモルファス状態になりやすいため、表面に微量の水分が残りやすいです。この水分層が、揮発性の香り成分を溶かしやすく、結果として吸着が促進される傾向があります。

つまり、フルーツシュガー(果糖)は、状態によっては香りの吸着率が高くなる可能性があります。ただし、保存状態や具体的な製品の形態(結晶状かアモルファスか)によっても影響を受けるため、一概にすべてのケースで他の砂糖よりも吸着率が高いと断言するのは難しいですが、基本的な性質としてはそのような傾向が見られると言えます。

塩でも同じことが起こる?

塩も砂糖と同様に香りを吸着する性質を持っています。特に粗塩や岩塩は表面が多孔質で、スパイスやハーブの香りを吸収しやすいです。

塩に香りを移しやすいスパイスには、

  • ローズマリー
  • タイム
  • セージ
  • ガーリック
  • 黒胡椒 などがあります。

例えばお店の商品を他店と差別化したい場合の一つの選択肢としてこのような方法もあります。
どんなコーヒーにも合う最適な香り、はなかなか難しいかもしれませんが、この方法でアレンジメニューに一貫性を持たせるのも面白いかもしれません。

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